B0005.今野敏

2012年3月10日 (土)

隠蔽捜査2 果断 / 今野敏

まずは前作と重なりますが、今野敏の簡単な紹介を。

今野敏は、かなりの多作作家、ジャンルも、警察小説、テレビドラマで有名な安積班ものとか、空手・格闘技系の小説、SF、伝奇もの、超能力もの等々。

特に最近よく出版され、売れている警察小説も、ブームになる遥か前から手がけていました。
警察小説とは、警察組織、警察機構を背景に、警察官が事件に当たる小説の事です。
その内容は、勧善懲悪的な、単純なストーリーではなく、警察組織、警察機構の矛盾と戦いつつ、事件の解決に当たるストーリーがほとんどです。
ただ、今野敏の警察小説は、警察組織、警察機構の矛盾と戦いつつ・・・と言う点は、それほど強くありません。

今回は、前作の「隠蔽捜査」の後日談となります。

東大卒で警察庁長官官房、総務課長のだった竜崎伸也は、息子の起こした麻薬事件で息子を自首させ、覚悟の上大森警察署署長に降格された。
ある日、高輪署管内で消費者金融の強盗事件が発生し、逃走した3名の犯人確保のため、大森署にも緊急配備(キンパイ)指令が来た。
大森署の交通課長の手配に漏れがあり、気付いて配備させた時間差で、大森署管内からすり抜けた犯人が、碑文谷署管内で本庁機動隊に2名逮捕された。
逃走した1名の行方は、依然不明。
キンパイの最中に、大森署管内の小料理屋「磯菊」で喧嘩しているとの、通報が入った。

大森警察署の上位組織、第二方面本部の野間崎管理官が、キンパイの失態に、方面本部の面子が潰された、タルんでいると怒鳴り込んで来た。
野間崎管理官をあしらうため、同期で幼馴染の、第二方面本部の上位組織、刑事部長の伊丹に電話して口添えしてもらった。

竜崎は、大森署管内の「磯菊」の喧嘩の確認をするよう命じると、現場の警察官に向かって店内から発砲して来た。
単なる喧嘩の通報が、人質立てこもり事件となり、すぐに大森署に指揮本部が立ち上がった。
刑事部長の伊丹が、大森署到着し、指揮本部の本部長となる。
慣例では、所轄署署長が副本部長だが、本部に2人の指揮は不要と、竜崎は現場へ行った。
現場では捜査一課特殊班(以後SIT)いて、縄張り争いに興味のない竜崎は、大森署署員を専門家のSITの指揮下に入れた。

竜崎が到着して、1時間以上経過し、事件は膠着(こうちゃく)状態。現場に、対テロ、ハイジャックなどの突入の専門部隊、第六機動隊第七中隊(以後SAT)も到着した。
さらに2時間以上が経過し、立てこもり犯は発砲して来て、人質の安全も懸念されるため、SATは竜崎に突入の意見具申をした。
伊丹は、あくまで刑事部に所属するSITによる解決を主張したが、人質の安全確保、早期解決のため、竜崎はSATに突入を命じた。
SATは突入後して、人質は無事確保、犯人は射殺されて、発見された。

後で判明したのは、突入の際、犯人の銃は弾切れ。SATが丸腰の犯人を射殺したと、新聞で叩かれた。
警察内でも騒ぎ出し、立てこもり事件の指揮が適切だったか、警察庁の監察官が、事件の査問をする事となった。
査問の担当は、竜崎も知っている、優秀な官僚の小田切主席監察官。
警察官にとって、そもそも査問が不名誉であり、査問結果によっては懲戒、場合によってさらに地方に飛ばされかねない。
以前あしらった、野間崎管理官からは、竜崎に不利な報告が、監察官に上がっているように考えられた。

新聞社に、犯人の銃が弾切れだった事を漏らした警察官として、警察官としての態度が悪い、戸高部長刑事ではないかとのウワサがあった。
戸高をについて調べている過程で、戸高から、この立てこもり事件に、不審な点が多過ぎると指摘された。

良い小説家と、良い料理人は、似ていますね。
両者とも、どんな作品でも一定水準を超えると言う事です。
この作品は、一定水準を超えるどころか、前作に勝るとも劣らない名作ですけどね。

まず、前作「隠蔽捜査」での主人公、竜崎の設定は、東大卒、バリバリのエリート官僚、警察庁の長官官房総務課長。
しかし今回は、左遷により大森署署長として、事件に当たります。
現場捜査員ならともかく、捜査実務はしない警察署署長も、主人公にはしにくいですよね。

主人公の竜崎は、地位に汲々としている小役人なんかではなく、常に正しい原則に沿って行動する、いわば痛快な人物なんですね。
妻も、同期の伊丹も、そんな竜崎を変人扱いします。
前作同様、こんな強烈な主人公を考え出したら、小説としては半分成功したものでしょう。

今回は、前作とは違い、小説タイトルはありふれていて、ここからはストーリーは想定出来ません。
今回もストーリーは骨太で、シンプルなんですが、前作より凝っていて、どんでん返しもあります。

今回の事件では、事前に知りえた情報の範囲内で、竜崎の判断にミスはなかった。
しかしキンパイの犯人取り逃がし、その犯人による立てこもり、SAT突入、犯人の射殺、拳銃弾切れと、事態は悪い方へ進みます。
野間崎管理官との折り合いも悪く、窮地に立ちます。

今回のテーマは、戦う意義。
生きると言う事が、すでに戦っているようなものですが、一から十まで、何に対しても戦うことは不可能です。
しかし人は、本当に戦うべき時に、大人の判断と称して戦わなかったりしますね。
変人の竜崎は、己の信じるところに立ち向かい、戦います。
まあ、この強烈なキャラクターですから。

前作で、態度が悪い刑事として描かれていた戸高が、大活躍。
実は優秀な鬼刑事だったんですね。
興味のない事に無頓着になるのは、一芸に秀でた人に見られる傾向でもあります。

立てこもり犯が瀬島、人質が源田と来ると、太平洋戦争中の陸軍参謀本部作戦課の瀬島龍三と、海軍の航空畑の源田実をイメージしちゃいますね。
この辺からネーミングしたのかは、分かりませんが。

素晴しい登場人物に、素晴しいストーリー、これで面白くない訳がありません。

この作品も、前作同様、土曜ワイド劇場で映像化しています。
自分は再放送を見ました。
事件の発端が小説と異なり、どうしてなんだろうと思っていたら、ラストでお涙頂戴の演技にする、伏線でした。
ラストシーンは、土曜ワイド劇場お決まりの、断崖のシーン(笑)。
こう言う予定調和的なストーリーは、見飽きたし、いい加減白けるんですけどね。
キャスティングも疑問でした。
それ以外は、端折ってはいますが、ほぼ小説に忠実なストーリー・・・悪くはなかったんですが。

次作の、「隠蔽捜査3 疑心」も読了しました。その内、アップします。

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2011年9月29日 (木)

隠蔽捜査 / 今野敏

今野敏は、かなりの多作作家、ジャンルも、警察小説、テレビドラマで有名な安積班ものとか、空手・格闘技系の小説、SF、伝奇もの、超能力もの等々。
ちなみに、このブログで取り上げた、東直己佐々木譲今野敏、いずれも北海道出身作家ですが、これは単なる偶然です。
たまたま最近読んで面白かった作家に、北海道出身が多かっただけの事です。

特に最近よく出版され、売れている警察小説も、ブームになる遥か前から手がけていました。
TBSのドラマで放送している「ハンチョウ〜神南署安積班〜」なんかは、最初の作品「東京ベイエリア分署」が、1988年ですから。

警察小説とは、警察組織、警察機構を背景に、警察官が事件に当たる小説の事です。
その内容は、勧善懲悪的な、単純なストーリーではなく、警察組織、警察機構の矛盾と戦いつつ、事件の解決に当たるストーリーがほとんどです。
ただ、今野敏の警察小説は、警察組織、警察機構の矛盾と戦いつつ・・・と言う点は、それほど強くありません。
この作品は、2005年に発表され、それまで賞には縁がなかった今野敏に、吉川英治文学新人賞をもたらします。

東大卒で警察庁長官官房、総務課長の竜崎伸也の業務の1つは、マスコミ担当でもある。足立区綾瀬で起こった、暴力団員殺人事件の報告が来ない事に、いらだっていた。
しかも、殺害された暴力団員は、かつて1980年代末に足立区で起きた、誘拐、監禁、強姦、殺人、死体遺棄事件の実行犯の1人。
マスコミに嗅ぎつけられ、あらぬ方向で大騒ぎになったら、官房長官に対して、知りませんでしたでは済まない。

所轄の警視庁刑事部長、竜崎の幼馴染で同期の伊丹俊太郎に食ってかかったが、伊丹はちゃんと警察庁刑事局へは報告していた。
刑事事件の縄張り意識で、長官官房に情報を寄越さなかったのは、刑事局課長の坂上だった。

2件目、同じ足立区の事件の逮捕者が、さいたま市内の潰れたスナック跡地で、発見された。
同一犯の事件として、綾瀬に捜査本部を設置した。
刑事局からは、何の情報も来ず、幼馴染のよしみなのか、伊丹から連絡して来た。

そんな矢先、東大を目指し、浪人していた息子の邦彦が、部屋でタバコの先にヘロインを付着させて、吸っているのを発見した。
官僚本人ではなく、家族の事とは言え、監督不行き届きで、自分に処分が下る事は間違いない。
伊丹にどうした良いか相談したら、もみ消せと言う。
竜崎がこれまで築いたものが台無しになり、警察評判も落ちる。だれも事件を公にして、喜ばないと。
竜崎は、もみ消すと言う事は念頭にはなかったが、事件が発覚した際に、もっと悪い事態になるため、納得出来ない処置であった。

大森署で、多数の打撲傷のある変死体が発見された。被害者は、過去にホームレスの傷害、殺人で逮捕された。
一見犯行現場も、手口も異なる3件の殺人だが、いずれも凶悪な少年犯罪で、当時の少年法の元、量刑が軽かった事件だ。

3件の事件をカレンダー上で見て、所轄警察官の3交代制、日勤、第一当番、第二当番、非番のシフトと一致している事を発見した。
伊丹もその事に気付いていて、警察官を調査して、被疑者を特定しつつあった。

被疑者が非番の時、被疑者を監視していた警察官が、被疑者の行動を誤解して、捜査本部の指示なく、逮捕してしまった。
逮捕された警察官は、すぐに全面自供。
しかし、証拠が見つかるまで、発表は控えていた。

警察官が犯した殺人事件で、大騒ぎになるかと思われたが、様子がおかしい。
自供したにも関わらず、凶器の発見に、無為に手間取っている。
どうやら、現場捜査の上層部で、事件の隠蔽が指示されているように思えた。

東日新聞編集長、福本が、警察がこの事件を隠蔽しようとしているのではないかと、疑義を表明した。
事件の隠蔽をやめさせようと、竜崎は、伊丹の捜査本部へ向かった。

今野敏は、名前は知っていたものの、2007年頃読んだ、この作品が初めてです。

まず、凡人は、こんな設定の主人公にはしないでしょう。
雑草のような、現場たたき上げの主人公は数あれど、東大卒、バリバリのエリート官僚、警察庁の長官官房総務課長。
この総務課長ってのが、直接捜査に関係ないので、主人公にしにくいですよね。
自分がこの作品を読もうと思ったのも、この小説として成立しにくい、この主人公です。

主人公の竜崎は、地位に汲々としている小役人なんかではなく、常に正しいと信じる原則に沿って行動する、いわば痛快な人物なんですね。
地位もあるわけですから、もっと楽に、部下に丸投げして仕事をする事も可能なんでしょうが、2件目の殺人事件の際は、日曜にも関わらず、マスコミ対応に出勤して、伊丹をあきれさせます。
妻も、伊丹も、そんな竜崎を変人扱いします。
こんな、強烈な主人公を考え出したら、小説としては半分成功したものでしょう。

足立区綾瀬、誘拐、監禁、強姦、殺人、死体遺棄事件と来れば、モデルは、1989年「女子高生コンクリート詰め殺人事件」ですよね。
自分はこの事件詳細を途中まで読んで、あまりの酷さに読了せず、今でもトラウマになっています。

ホームレスの傷害、殺人の方は、1983年「横浜浮浪者襲撃殺人事件」ですね。

小説タイトルからと、1/3くらい読了して、自分はストーリーが大体見えました。
底の浅い作品でしょうか?・・・さにあらず。
ストーリーは骨太で、シンプルなんですが、登場人物のヒューマンストーリーで読ませる作品なんです。
だからこそ、この強烈な主人公。

事の軽重はともかく、だれでも失敗をやらかした事はあるでしょう。
そして簡単に考え、隠蔽しようとした事も。
そして、隠蔽した事で、事実が発覚した後、もっと悪い事態になった事はありませんか?

この小説は、そんな誰しも経験するであろう事柄を、事件に絡めて訴えかけているのです。
恐らく、ほとんどの人は、息子の邦彦の麻薬も、殺人事件も隠蔽しようとするんじゃないですかね?

結末は、読んでもらえば、予想通りだった事が分かります。
そして読み終えて、あなたは言うでしょう、この作品は面白かったと。

この作品、土曜ワイド劇場で映像化したようですが、自分は見ていません。

最後に、態度の悪い大森署の刑事、戸高が出て来ます。
この戸高は、次作、「隠蔽捜査2 果断」で大活躍します。
遠からず、「隠蔽捜査2 果断」の書評もアップ予定です。

空手道今野塾を主宰していまして、空手を題材にした小説も凄いんですよ。
こちらもそのうち、紹介したいと思います。

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