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2012年2月21日 (火)

ビルマ決戦記(1) / 越智春海

このブログ初の、戦記物の読書レビューです。
実は自分、かなり戦記物は読みます。

戦記物を読むきっかけは、小学校3年の頃親にねだって買ってもらった、タミヤのタイガー(ティーゲル)戦車のプラモデルです。
それ以来、楽器と出会う中学2年まで、自分の小遣いは、プラモデルに消えました。
時によって、戦車ばかりでなく、飛行機や船にもハマりました。
しかし、地上兵器は結構凝って、中学の時にはミニジオラマも作って、飾っていましたね。

プラモデル作りに平行して、その背景としての戦記を読むようになり、プラモデル造りは卒業しましたが、戦記は今だに読んでいます。
戦記は、特に体験記なんかを読めば読むほど、絶対に軍隊にも入りたくないし、戦場にも行きたくないですね。

日本は、勝てるはずのない太平洋戦争ですが、その上さらに下手な戦(いくさ)をして、多くの死傷者を出しました。
太平洋戦争での、軍隊の戦死者がおよそ174万人、民間人を含めると213万人も死んでいます。
それに対して、アメリカの戦死者は9万人、イギリス8万人。
結果論と言われるかも知れませんが、単純な、戦死者数の比でも、下手な戦(いくさ)と言わざるを得ないですよね。

ちなみに、第二次大戦ヨーロッパの場合はと言うと、ドイツの軍人の戦死者が325万人、イタリア38万人、旧ソ連611万人、イギリス36万人、アメリカ45万人、フランス24万人。
ドイツ、イタリアの合計が363万人、旧ソ連、イギリス、アメリカ、フランスの合計が714万人。
どう言い訳しても、日本が戦下手な事は、お分かり頂けますでしょうか?

戦記物を読む際に、注意する事は・・・戦記物に限りませんけどね、書かれている事が、必ずしも事実だと信じないで読む事です。
善意で言うと、執筆者の誤解、記述ミスがありますし、悪く言うと執筆者によっては、事実の曲解は可愛い方で、ぶっちゃけウソを書いている事です。

これは上級指揮官の手によるものである場合、特に顕著に曲解やウソが多いです。
そして太平洋戦争の公刊戦史とも言うべき、「戦史叢書」でも、執筆者やインタービューした相手が上級指揮者で、どこまで真実なものやら。

どうして、曲解やウソが多いのか?「戦史叢書」では、下手な戦(いくさ)をした本人にインタビューしていまして、下手な戦(いくさ)でしたと認める潔い人が、どれくらいいるのか、考えれば分かる事でしょう。

では、書かれた事をどうやって、真実かどうか見分けるのか?
これも、戦記物には限りませんが、なるべく多くの関連書籍を付き合わせ、クロスチェックする以外に方法はありません。
しかしその際に、全ての書籍が、等しく「戦史叢書」を引用していたら、目も当てられませんけどね。

さて、ビルマ決戦記のレビューに入りましょう。
著者の越智春海は、太平洋戦争中、軍人でしたが、地獄のビルマ(現ミャンマー)戦の従軍者ではありません。
「ジャワは天国、ビルマは地獄、死んでも帰れぬニューギニア」と当時言われたそうですが、第5師団の将校として、東ニューギニア戦の初期に、比較的平穏なウエワク、マダン付近にいて、激戦になる前にニューギニアを離れ、平穏なセラム島に駐留していたそうです。

当時日本と中国(蒋介石率いる中華民国)と戦争をしていまして、中国を支援していた連合国側からの補給路が4つありました。
香港ルート、ベトナムルート、ビルマルート、シルクロードルート。
シルクロードルートは、ソ連からの援助で、1941年に独ソ戦が始まって以来、ソ連からの援助は途絶えました。
ベトナムルートは1940年9月、日本軍の仏印進駐で途絶え、香港ルートは、太平洋戦争の開始後日本陸軍が攻撃し、1941年12月末には香港を占領しました。
この仏印進駐が、太平洋戦争の遠因と言われていますね。

1941年12月8日、太平洋戦争発生後、陸軍の作戦で、ビルマから中国への補給ルート切断し、中国を屈服させるため、1942年4月にビルマを占領しました。
これにより、ビルマルートで、中国を支援する事が出来なくなり、当初は空路から、後に人跡未踏のジャングルを切り開いた、レド公路が作られ、新たな中国への補給路となりました。

このビルマ決戦記は、日本軍のビルマ侵攻後、1942年秋以降のビルマの戦闘について、終戦までの流れをカバーしています。

実は、自分の知る限り、この頃のビルマ戦全体をカバーした作品は、「戦史叢書」の前に公刊戦記扱いだった服部卓四郎著「大東亜戦争全史」しかありませんでした。
その意味で、貴重だなと思い、購入して読みました。
ちなみに自分、「戦史叢書」は持っていませんが、「大東亜戦争全史」は持っています。
ビルマ戦に参加した兵士の手記も、他の戦域に比べ豊富で、自分は可能な限り目を通しています。

本書を読んで気が着いたのですが、作者越智春海氏が、本書を書くにあたり参考にしたのは、「戦史叢書」や「大東亜戦争全史」、「中国ビルマ戦記」、「回想ビルマ作戦」あたりがメインと思われます。
戦史叢書」は、東京都の大きな図書館(例えば東京都立図書館とか国会図書館とか)に行けば見れますが、個人購入するのは現在では困難です。
大東亜戦争全史」、「中国ビルマ戦記」は、中古のみ入手出来ます。
回想ビルマ作戦」は、新館で入手可能です。

これらのいずれの本も、ビルマ作戦では引用される定番の著作なのですが、簡単に信用ならないと言うのは、前述の通りです。

これらの資料を参考にして書くなら、自分でも書ける訳で、そこに元軍人、越智春海の軍隊経験を加味して書いています。
しかも面白い事に、元陸軍軍人でありながら、下手な作戦とか、ダメな司令部(または司令官)をこっぴどく批難して書いています。
これは、他の旧日本陸軍の元軍人の著作にはない特徴です。

これらは他人事ではなく、会社組織は、軍隊を参考に作られておりますので、会社組織に例えて読むと、現在でも心に突き刺さる事が多々あります。
会社の仕事で人は死にませんが、戦場では人が死にます。

読んだ結論から言うと、越智春海の視点については、面白いなと思いました。
当たり前ですが、自分には軍隊経験はないですからね。
しかし、目にする事が可能な本を元に書いているので、自分にとって目新しい情報はありませんでした。

次回は、本書の各章について、思うところを書きます。

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コメント

食べ歩き・競馬と醍醐さんの趣味が中身やレベルが違いますが小生と似ていましたけど戦争物が好きなことまで一緒だったとは(笑)。大学では西洋史専攻で卒論はナチス第三帝国でした。悪者にされがちなドイツ国防軍や親衛隊の将校の制服がカッコイイこともありますがドイツ国防軍のファンなんですよ。戦争映画もよく観ましたが、映画のサントラもかなり集めました。連合国軍が主役の映画よりドイツ第三帝国軍が主役のUボート、スターリングラードなんかが好きですね。特にUボートのサントラは最高です。ヨーロッパ戦線ほどじゃないですけど太平洋戦争も興味があって昨年秋の鹿児島旅行も一番の目的は特攻基地だった知覧の特攻平和会館に行くことでしたから。Uボートの音楽、YouTubeにあると思いますので未聴でしたら是非聴いてみてください。

投稿: シーバード | 2012年2月21日 (火) 09時32分

追伸

「Uボートのサントラ」でPokotanConcordeさんがアップしたのがお薦めです。涙が出そうなぐらい何度聴いても素晴らしいですよ(笑)。お忙しいところ迷惑かも知れませんがよろしく。

投稿: シーバード | 2012年2月21日 (火) 09時52分

そりゃまあ戦車に肉弾戦挑んで行く戦いじゃ、
どんな戦上手でも戦死者は増えます。

戦死者を出さないのが戦上手というなら、
ハルノートのとっとと屈服して、
共産主義革命の餌食になるのが
本当の戦上手かもしれません。

という意味ではこの戦争自体が
「豈朕カ志ナラムヤ」なわけで、
戦下手かどうかではなく、
「外交下手」という事だと思います。

投稿: Mumin | 2012年2月21日 (火) 19時33分

シーバードさん、コメントありがとうございます。

>大学では西洋史専攻で卒論はナチス第三帝国でした

自分は、第二次大戦が主ではありますが、古代から現代まで、幅広く読んでいます。
ナチスのどの辺を、卒論にしたんでしょう?

>ドイツ国防軍や親衛隊の将校の制服がカッコイイこともありますが

あれって、カッコ良く見えるように、デザインしたそうですね。

>戦争映画もよく観ました

個人的には、「戦略大作戦」と「戦争のはらわた」が好きです。

>知覧の特攻平和会館

残念ながら自分は、まだ行った事がありません。

投稿: 醍醐 | 2012年2月21日 (火) 22時23分

シーバードさん、コメントありがとうございます。

>「Uボートのサントラ」でPokotanConcordeさんがアップしたのがお薦めです。

了解です。

投稿: 醍醐 | 2012年2月21日 (火) 22時24分

Muminさん、コメントありがとうございます。

「戦車に肉弾戦」と言う戦場での戦闘と、「ハルノートの受け入れ」と言う国家戦略を同レベルに述べるのは、極論だと思いますよ。
まあ、分かって言っている部分は理解しますが。

自分が言っている戦下手は、ビルマ方面軍とか、配下の15軍、28軍、33軍、更にその配下の歩兵師団の作戦計画と実施について言っています。
例えば、攻撃して、捕獲した敵の補給物資をアテにした作戦計画とか・・・今の防衛大学なら、こんな作戦計画は落第しているでしょう?

作戦の評価はビジネスと同様、コストパフォーマンスです。
自軍の損出は少なく、敵軍の損出は多く、作戦目的を達成すると言う事ですね。
つまり損害の多寡によって、全てではありませんが、1つの作戦の評価が可能です。

>「外交下手」という事だと思います。

これは昔も今も、否定できない事実ですね。

投稿: 醍醐 | 2012年2月21日 (火) 22時54分

クラシック好きでしたので、リヒャルト・ワーグナーとナチズムの関係を卒論にしました。ゲルマン神話、アーリア人至上主義や反ユダヤ主義だとか・・・ヒトラー等ナチス幹部にはワーグナー愛好者が多かったようで、ナチス党大会の映像でよくニュールンベルグのマイスタージンガー前奏曲が流れるシーンがありますよね。戦争のはらわたのジェームズ・コバーン演じるスタイナー好きですよ。サントラ持ってますが、アーネスト・ゴールド作曲のマーチがこれまた良いですよね。大東亜戦争の本は色々読みましたが、まだまだ勉強中です。一つ上げれば硫黄島で奮闘した栗林中将には感動しました、美化されているかどうかはともかく。

投稿: シーバード | 2012年2月22日 (水) 08時50分

>リヒャルト・ワーグナーとナチズムの関係

「ニーベルングの指輪」・・・アーリア人のアイデンティティのような話が、ワーグナーの1つの作曲のテーマですものね。
ワーグナーの曲調も、いかにもゲルマンなメロディラインですよね。
高校のブラスバンドで、パーカッションをしていた時、「ローエングリン-第3幕への前奏曲」をやりました。

>ジェームズ・コバーン演じるスタイナー好きですよ

東部戦線と言うのが渋いですね。
傷病兵が、完治していないのに、自主退院して原隊に復帰する事は、現実にもありました。
あんな風に、戦場に置き去りにされることは、あり得たでしょうし、その意味でもリアルですね。

>硫黄島で奮闘した栗林中将には感動しました

硫黄島戦は、日本軍の死傷者数をアメリカ軍の死傷者数が上回った、唯一の戦いです。
日本軍は硫黄島を、世界有数の要塞に作り上げ、爆撃にも砲撃にも、持ちこたえました。
指揮を執ったホーランド・スミス海兵隊中将は、損害が多過ぎるとして、罷免されました。
この戦いを、両軍とも、下手な戦とは言わないですね。
栗林中将は、日本陸軍で数少ない名将と言えるでしょう。

ビックリしたのは、「硫黄島の手紙」が、アメリカの映画なのに、きちんと日本の戦記や記録を参考に、事実に近い形で作っていた事です。
映画の主題が、戦闘にはありませんので、あまり戦闘シーンは多くありませんが、アメリカ軍は戦場神経症者、戦場発狂者が続出した、地獄の戦闘だったそうです。

投稿: 醍醐 | 2012年2月22日 (水) 20時56分

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