利腕 / ディック・フランシス
自分にとっての読書は、移動時間中や空き時間の暇つぶしに過ぎません。
しかしつまらない本は、読むのが続きませんので、なるべく面白そうなのを選んで読んでいます。
そしてしばしば、暇つぶしだなんてとんでもなく、その時間を費やす目的が、読書である作品に出合います。
ここ最近の読書事情は、相変わらず東直己のススキノ探偵シリーズを読んでいたりしますが、あんまりこればっかりだと、食傷気味になるでしょう。
って事で、目先を変えて、外国人作家のこの作品にしました。
自分は、10回以上読んでいて、もはや愛読書と化しています。
調査員シッド・ハレーは、元イギリスの障害騎手で、レース中の事故によって、左手を失った。
騎手をあきらめ、左手には電池で動く義手をして、ラドガー探偵社で仕事を学び、独立した。
かつて騎乗した事がある調教師、ジョージの妻のローズマリーから、調査を依頼された。
過去の厩舎の競走馬で、2歳時には素晴らしい成績だった馬たちが、ことごとく3歳になって活躍出来ていない。
今年は、圧倒的な強さの2歳牡馬、トライ―ナイトロがいて、2000ギニー(日本で言うと皐月賞に相当)まで、極秘裏に、何も起こらないよう手配して欲しいと。
一方、現在友人の、かつての妻の父、チャールズ・ロランドから、娘(別れた妻)の詐欺事件の調査と解決を依頼された。
ジョッキークラブの保安部、ルーカス・ウェインライトから、部下のエディ・キースに関する不正について、極秘裏に調査するよう依頼された。
いずれの調査も、順調に進捗するかに思われた。
しかしシッド・ハレーは突然悪人集団から拉致され、調査から手を引かないと、残った右腕も動かなくすると、警告を受ける。
隻腕(へきわん)の男が、もうひとつの腕を失う事は、死んだも同然。
シッド・ハレーは、フランスに失踪する。
数日して、トライ―ナイトロが、2000ギニーに惨敗する。
一時の恐怖から逃げ出したシッド・ハレーは、そんな自分自身を蔑視して、自分を取り戻すべく、イギリスに戻った。
作者のディック・フランシスは、エリザベス女王の持ち馬にも乗った事がある、元障害騎手。
騎手を引退した後も、競馬記者を経て、自伝を書いた後、ミステリー作家としてデビューし、作家として大成します。
日本では、早川書房から競馬シリーズとして出版され、人気を博しています。
ディック・フランシスのミステリーは、謎解き的な要素もありますが、主人公は主義主張を持ち、耐えるタイプの男が多い事から、1人称で書かれる事もあり、ハードボイルドに分類する人もいます。
自分の考えでも、この内容なら、ハードボイルドで良いでしょう。
さて、この作品、ディック・フランシス中期の傑作と言われ、1979年にイギリスのCWA賞ゴールド・ダガー賞、1981年にアメリカのMWAエドガー賞長編賞をダブル受賞しています。
自分が過去に読んだハードボイルドの中でも、ベスト3・・・いやベスト1と言っても良い、素晴らしい作品です。
3つの調査が、ストーリーとしてごちゃごちゃにならず、上手に話をさばいています。
しかも、どの調査も、この小説で無駄ではなく、ちゃんと意味があります。
そしてラストシーンの素晴らしさ・・・快哉を叫ぶことでしょう。
競馬を知らない方でも、面白く読む事ができます。
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