B4903.ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ

2013年1月 8日 (火)

ビブリア古書堂の事件手帖~栞子さんと奇妙な客人たち~ / 三上延

久々の書評となりますね。この間も、本は読んでいましたし、良い作品にも出会っていました。
越智春海の「ニューギニア決戦記」の書評が、大作過ぎて、終盤まで進んでいますが、そこで詰まっています(苦笑)。

さて、この本、「ビブリア古書堂の事件手帖」は、本屋で何度の手に取りましたが、結局購入したのは、1年以上経ってからです。
本との出会いは、人との出合いに似ていて、タイミングが合わないと、購入して読むに至りません。

昨年から今年にかけては、東直己のススキノ便利屋探偵シリーズと、その他の作品に熱中していたのも1つの原因です。
出版社がアスキー・メディアワークスで、そこから刊行されている小説に、良い印象がない事。
カバーはどう見てもミーハーだよな(絵自体は好きですけどね)って事で、敬遠していました。

何より一番の敬遠していた理由は、事件手帖となっていながら、殺人事件を始めとする、法に触れる事件を扱った小説ではありません。
逆に殺人の起こらない、地味なミステリーなのに評判を呼ぶというのは、逆に言うと、相当に卓越した作品なんだろうなと想像しました。

古書と、それにまつわる人間が起こした出来事について、書かれているものです。
自分は、本は好きな方ですが、本の中身が好きなのであって、古書としての価値とかには、興味がありません。
古書についてマニアックに書かれていたら、読めないだろうな・・・と思いました。

読んでみると、それはいずれも杞憂で、アスキー・メディアワークス系の軽快さに、古書の情報で味付けされた人間ドラマ・・・そんな内容です。
出版されて評判を呼び、2012年本屋大賞(書店員の投票で決まる)にノミネートされましたが、残念ながら大賞には輝きませんでした。

主人公は、内定をもらっていた会社が倒産し、大学卒業後も就職浪人として、求職活動をしている五浦大輔。
本にまつわる話なのに、この五浦大輔、活字を見ると気持ち悪くなり、本が読めない体質です。
それでいて本には興味があり、自ら望んで図書委員をしていたと言う、変わった人物。

ヒロインの、ビブリア古書堂の若き、美しき女主人、篠川栞子。
透き通るような美白の肌で、巨乳。
普段は知らない人と話が出来ないくらい、対人恐怖症に近い人見知りなのですが、本の話になると、スイッチが入り饒舌なります。
篠川栞子が、取り巻く人の起こした出来事を、本を通してプロファイリングして、見通して(推理して)行きます。

五浦大輔が、本が読めない体質と言うのは、よく考えましたね。
小説内では、卓越した本の知識を持つ篠川栞子が、五浦大輔に話して聞かせると言う手法で、さりげなくどんな古書なのかと言う情報を語らせています。
さりげなく、ストーリーの中で、篠川栞子に古書を語らせると言うのが重要なポイントで、ともすれば難しくなりがちな古書の情報が、いとも必然的に流れますので、容易に頭の中に入って行きます。

考えてみると、シャーロック・ホームズのシリーズは、実は語り手は友人のワトソン博士(医師)。
語り手の道化回しは五浦大輔(ワトソン博士)、謎解きは篠川栞子(シャーロック・ホームズ)とも比定出来ます。
ワトソン博士は、PCの調子が悪くなったら、出て来る人じゃないですよ(笑)。

そして見事な解決で、誰しも納得出来そうな大岡裁き・・・みたいな。

一方、五浦大輔の1人称で話が進み、時にはほろ苦い結末(意外にハッピーエンドですけど)に、ハードボイルドを感じてしまいます。

短編なのに、結構凝った複雑なストーリー、そして古書の知識を交えて、軽快に捌いて行きます。
もしかすると作者の三上延は、プロットの天才かも。

もうひとつ、五浦大輔と篠川栞子のラブストーリー(?)でもありますが、そっちはどうでも良い(いやよくないw)です。
ちなみに、ビブリアとは、ギリシャ語で本と言う意味・・・結構ベタです。



夏目漱石『漱石全集・新書版』(岩波書店)

俺・・・五浦大輔(ごうら だいすけ)は幼少の頃、自分を名付けた祖母の大事にしている本棚で、唯一ひらがなで書かれたタイトルの本、夏目漱石「それから」を手に取った。
そこを祖母に見つかって、正直に謝ろうとした矢先、頬を張られ、「もう一度同じ事をやったら、うちの子じゃなくなるからね。」と言われた。
俺はそれ以来、このことが原因かどうか分からないが、本を読みたいのに、たくさんの活字を読むと気持ち悪くなるようになった。

月日が流れ、俺は大学卒業後、内定をもらっていた企業が潰れ、就職浪人となってしまった。
その後祖母が亡くなる際、それ以来初めてこの事に触れ、やり過ぎだったと謝罪した。

しばらくして、祖母がなくなり、この時の本、「漱石全集」を処分する段になり、「それから」に夏目漱石から田中嘉雄様へのサインがあった。
処分するよう言った母も、この本の署名が本物なのか、いくらぐらいの価値があるのか、知りたがっている。
この本を購入したのが、北鎌倉のビブリア古書堂。

それは高校時代のある日、ノースリーブの白いブラウス、紺のロングスカートの地味な服装の、長い黒髪の透き通るような色白の美女が、ビブリア古書堂で働いているのに、強い印象を受けた。
購入したビブリア古書堂に、鑑定をしてもらうために、持って行った。

ビブリア古書堂の店にいたのは、自分があの日見た女性ではなく、色の浅黒いショートカットの若い娘。
長い黒髪の美女は、ビブリア古書堂の店長で、怪我して病院に入院していた。
若い娘は妹で、姉にメールしたので、病院に鑑定してもらいに行けと言われた。

病院のベッドにいたのは、高校の頃見かけた長い黒髪の美女、篠川栞子(しのかわ しおりこ)。
極度の人見知りなのか、蚊の鳴くような小声でしどろもどろ。
ところが、話題が本の事になると、一変して立て板に水の如く、話し始めた。

俺が本を読めなくなった原因も、祖母に本を見て叱られたせいだと、いきなり見抜く慧眼(けいがん)。
サインは、夏目漱石の本物ではなく、祖母の手によるもの。
そこには、祖母なりの深い事情があった。

祈念すべき第1作ですし、主人公の五浦大輔についての説明、ヒロインの篠川栞子の説明を書きつつ、面白いストーリー、そして連作なので、今後につながるストーリーと考えると、難しいものです。
実は、あらすじを書くのに苦労しました。
80ページ弱の短編小説ながら、さまざまなものが詰まっていて、しかもストーリーや人間関係がその割に複雑と来ています。
それなのに、読んでいて不自然さはまるでなく、するする読めてしまいます。

あえて言うと、最終的に五浦大輔がビブリア古書堂に就職するようになるのですが、そこがちょっと強引かも。
まあ、そうならないと次の話しにつながらないので・・・

篠川栞子の本からの、プロファイリング能力は、凄まじいですよ。
シャーロック・ホームズも顔負けなぐらい。
出だしの話としては、秀逸じゃないかと思います。



小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫)

俺・・・五浦大輔が、ビブリア古書堂で働き始め3日経った。
この店の番をしていた栞子の妹、文香(あやか)は、古書については何も知らないらしく、レジの打ち方しか教えてもらえなかった。
店に50代後半と思われる、ユニオンジャック(イギリス国旗)がプリントされたTシャツを着た男が、店にいた老婦人の万引きを捕まえた。

男の名は、志田肇(しだ はじめ)。この店の常連で、本には異常に詳しい「せどり屋」。
「せどり屋」とは、本を漁り、購入して転売して、利さやを稼ぐ商売の事。
志田から、本の鑑定と共に、本にまつわる相談を受けた。
小山清「落穂拾ひ・聖アンデルセン」の初版本を盗難に遭ったので、相談に乗って欲しいと言うものだ。

ねぐらの橋の下で、同業者と在庫を見せ合おうとした際、自転車のカゴの中の何冊かの本の中に「落穂拾ひ・聖アンデルセン」があった。
コンビニにトイレを借りに行こうとしたら、背後で音がして、ボーイッシュな女の子が、自転車と衝突して転んでいた。
声をかけたが、何かを拾い上げて、駆けて行った。
用を足して戻ると、同業者が散らばった本を拾い上げていた。
同業者によると、女の子は、向こうの道路を渡って、バス停に行ったそうだ。
志田は、この女の子が本を盗んだと見て、警察には届けたくないが、本を取り戻したいと言うのだ。

栞子に相談すると、女の子は、本の価値を知って、転売目的で盗んだのではないと見抜いた。
そして消えた「落穂拾ひ・聖アンデルセン」を読む目的でもないと。
自分たちが、女の子を捜そうと提案された。
俺は賛成した。

価値のある本だから、盗難・・・と言う、誰でも思いつきそうなところが、最初に否定されます。
物語はそこから始まると言っても良いですね。
少ない情報から、推理が意外な方向に向かって行きます。

1つ重要なヒントを書きますが、女の子が転んだ後、拾い上げたのは、保冷剤です。



ヴィノグラードフ、クジミン共著『論理学入門』(青木文庫)

俺・・・五浦大輔が、店に来た50代後半のスーツを着た紳士、坂口昌志に、「論理学入門」本の買取を依頼された。
値段がつかない世なら、売らないとも言われ。
ところがその後、妻から買い取らないでと電話が入った。

病院で栞子さんに持って行って、この件を相談した。
どうして夫は本を売りたがり、妻は売るのを阻止したがるのか?
「論理学入門」の最後のページには、私本閲覧許可証と印刷された紙のラベルが貼られていた。
最後の日付は昭和47年・・・40年以上前。

栞子さんが、インターネットで坂口昌志の名前を検索すると、昭和46年の銀行強盗の記事が出て来て、容疑者の名前として坂口昌志の名前が書かれていた。
つまりこれは、坂口昌志が犯罪を冒し、服役していた時に読んだ本。

突然、坂口昌志の妻、しのぶが病室を訪れ、本を返して欲しいと言った。
栞子さんは、本は夫のものなので、夫の許可なく返すことが出来ないと突っぱねた。
続いて昌志も病室にやって来た。

私本閲覧許可証・・・そして刑務所に服役、それを隠すために本を売る・・・と言うシンプルなストーリーは、このビブリア堂には、通用しませんよ。
事前に、色々伏線を散らしていますが、最後に1つにつながり、これまた見事な推理、見事なエンディングです。
自分はこの本で、1番好きな作品ですね。

坂口昌志、しのぶ夫妻は、良いキャラクターだな・・・と思ったら、後の作品でも活躍します・
この作品の最後に、栞子さんが、怪我をした原因を告白します。
350万と高価な太宰治の署名入りアンカット「晩年」を巡って、手に入れようとする見ず知らずの粘着的な愛好家、大庭葉蔵(おおば ようぞう)に、階段から突き落とされたんだそうです。
五浦大輔に、犯人との対決を手伝ってくれるよう、栞子がお願いします。



太宰治『晩年』(砂子屋書房)

栞子さんは、太宰治生誕百年記念で、展覧会に請われ、「晩年」を貸し出した。
その後、大庭葉蔵から「晩年」を売って欲しいと電話があって、栞子さんが「大事な本で売り物ではない」と断った。
ある日、栞子さんが石段の上から、大庭葉蔵に突き落とされた。
大庭葉蔵から、「この事を言うな、言うと店に火をつける」と言われた。
栞子さんは、骨折ばかりでなく、腰椎の神経もやられ、元通り歩けるかどうかも分からない体になってしまった。

俺・・・五浦大輔は、栞子さんを階段から突き落とした犯人を捜す・・・おびき寄せるため、オトリの太宰治「晩年」を店に出した。
インターネットにも、「晩年」を売ると広告した。
本物の高価な「晩年」は、栞子さんの病室の金庫の中にある。
もし、偽名の大庭葉蔵以外が「晩年」を求めた場合は、売薬済みと説明するようにする。

しかし常連の志田肇に、一見して本物じゃないと見破られた。

店の外から、店内を伺う男が、度々目撃された。
そしてついに、看板にガソリンがかけられた。
俺は、栞子さんに電話して、警察に相談した方が良いと意見した。
その最中、ついに店の看板が炎上しだした。

この巻のクライマックスの話で、今までの話は、犯罪とは遠いところの話しでしたが、この話は犯罪との対決であり、その意味では一番スリリングです。
果たして大庭葉蔵とは、何者なのか?
オトリで引き寄せた後、どうやって大庭葉蔵と対決するのか?

面白いネタバレを書くと、この対決の後、気に食わなくて五浦大輔は、ビブリア古書堂を辞めてしまいます。
しかしそれでは、この後続く2-3巻は書けません。
栞子は、五浦大輔をどうやって引き戻すのでしょうか?

自分は、2巻、3巻とも読了していますので、近い内に機会を見て、レビューをアップしたいと思います。

実は1月14日から、ドラマがスタートします。
それより先に、ドラマの予想が先にアップされるかもです。

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