B5002.探偵はバーにいる

2011年6月17日 (金)

探偵はバーにいる / 東直己

自分は、ハードボイルド小説大好きです。
ハードボイルド小説は、暴力とは関係ありません。
一部に偏見があるようなので、ハードボイルドについては、拙著の最初の部分をご覧下さい。

この本を買った理由は、自分が20代後半に、自主失業していた時に、ハードボイルド小説なんか書いて、応募したりしていました。
それを知った札幌在住の自分の友人も、札幌を舞台にしたハードボイルド小説を書こうとしました。
でも、小説に1の事柄を書こうとすると、それに付随する10くらいの知識がないと、厳しいんですね。
友人は、ストーリーのプロットもなく、書き始めましたが、起承転結の起から先は、何も思い浮かばず、あえなく挫折しました(笑)。

ってな事があり、本屋でこの「ススキノ探偵シリーズ」を手にして、「へぇ・・・札幌を舞台にしたハードボイルド小説なんだ」と、それくらいのノリで買って読む事にしました。


俺は、いつもの通り、ススキノの「ケラー・オオハタ」で飲んでいたら、頼りなげな、若い大学生から声をかけられる。
大学の後輩らしく、名前は原田誠。俺の事を大学の三村助手から、探偵みたいな、人探しとかしていると聞いて、藁にでもすがる思いで、やって来た。
半年くらい前、合コンで知り合って、現在半同棲状態の諏訪麗子が、四日前から行方不明なんだと言う。

原田から見せられた諏訪麗子の写真は、美人でも不細工でもない地味な、ありふれた容姿で、知恵が足りなく見えるが、素直な笑顔だった。
最初は、男と女のありふれた話と、いい加減に聞いていて、軽く諏訪麗子の周辺を調べてみた。
銀行の預金通帳には、三日に二日くらいの割合で、二万円から五万円の入金があり、売春していた事を伺わせる。
失踪した日に、五十万円引き出されている。

原田と半同棲状態の、諏訪麗子のアパートを調べると、失踪した土曜日の朝刊一面の殺人事件の記事に、興味があったように思われた。
その殺人事件とは、ラブホテルのジョイン・シャトーで、売春婦と待ち合わせしていた男が刺されて殺された事件。
失踪と、殺人事件は、関係あるのだろうか?

ぼったくリバーの被害者、クラブ笹のツケを踏み倒そうとする男への警告の依頼、そんな依頼をこなしつつ、俺は気乗りしないまま、引き連られるように、諏訪麗子失踪の依頼にのめりこんで行く。

日本人の有名なハードボイルド作家と言うと、大藪春彦生島治郎北方謙三大沢在昌ってなところでしょうか?
特に、大藪春彦の「野獣シリーズ」は、殺人と暴力に満ちていて、あれが本物のハードボイルド小説なら、自分は一生ハードボイルド小説なんか、読まなくても良いと思ってしまいます。

しかし、そこまで有名ではないにしろ、矢作俊彦のマンハッタンオプの短編集とか、都筑道夫の探偵西連寺剛シリーズの短編集やべらぼう村正の短編集、原尞の探偵沢崎シリーズなんかは、自分が考える良質のハードボイルド小説です。
ハードボイルドには分類されないかもしれませんが、船戸与一佐々木譲にもハードボイルドの手法を用いた、素晴らしい作品が多くあります。

ハードボイルド小説とは、主人公の視点を通して、主人公の主義、主張の元、事を進めて行く小説です。
一般の小説でポピュラーな、3人称のハードボイルド小説もありますが、かなりの少数派で、1人称で語られるのが一般的です。

ハードボイルド小説では、1人称で語られる以上、主人公の名前は必要ではなく、しばしば名無しの主人公と言う設定があります。
例えば、ハードボイルド小説創生期に、初めて商業的に成功した作品、ダシル・ハメットのコンチネンタル・オプシリーズ、ビル・プロンジーニの名無しの探偵シリーズ、先に挙げた矢作俊彦のマンハッタンオプシリーズも名無しの探偵ですね。

この、「探偵はバーにいる」は、主人公の名前不祥な俺と言う、1人称で書かれています。
この先、名前がないのは面倒なので、以降主人公を、ススキノ探偵と呼びます。

1992年に出版されたこの作品、当初は日本になかった、奇異なハードボイルド、軽ハードボイルドなどと言われたそうです。
どうして、そうなっちゃうの?

ススキノ探偵は、ひんぱんにお茶らけ、それで、軽ハードボイルドと言われているのだろうと思います。

しかしハードボイルド好きなら、フィリップ・マーロウリュウ・アーチャーの皮肉なセリフに、ニヤッと来る事もあると思います。
別に軽口が多くなったところで、このハードボイルドの値打ちが、下がるでしょうか?
むしろ、よく読んでもらえば分かるのですが、この作品、実に良くハードボイルドのツボを押さえた作品だと思います。

舞台は恐らく、ゼビウスが流行り、ソープランドではなくトルコ風呂と呼ばれ、風俗営業法実施前と言えば、1983年暮れじゃないかと思います。

この作品では、ススキノ探偵がどんな商売で食っているか不明瞭・・・いや、博打で飯を食っていそうな事は、ぷんぷん臭っています。
日本には、アメリカと違い、探偵許可証はありませんが、ススキノ探偵が、真に探偵かと言えば、ちょっと違います。
むしろ、ススキノ便利屋と言った方が良いし、しかもその仕事では、飯を食っていません。
人探しで、飯を食っていないのに、あれほどのめり込んでしまう・・・

まず、地味な話ですね。
テーマは人探しで、多少の乱闘シーンもありますが、それほど人が死なないし、派手なカーチェイスもない。
第一、札幌に住んでいるのに、ススキノ探偵は、車も運転免許も持ってないし・・・
話に入る前に、一人死んでて、話の流れで、もう一人死んでしまいますが、それくらい。
逆な言い方をすると、だからこそ、リアリティを感じます。

良い小説とは、どんなものでしょう?
その小説の中に、人が生きている空間があり、それが地球上の(時には宇宙とか?天上界とか?)どこかに存在しそうな世界。
この作品の、いくつかのエピソードは、もしかして東直巳の実体験?と思えるほど、リアリティがあります。

自分は、北海道出身で、札幌出身ではありませんが、親戚も居、友人も住んでいて、何度も行った事があり、多少は土地勘もあります。
この小説を読めば、舞台となった場所に行けるくらい、札幌を精巧に描いています。
ついでに言うと、リアルなまでに盛りだくさんに出て来る、北海道弁。
自分は、懐かしく読ませてもらいましたが、北海道出身じゃない人は、分かるのでしょうかね?

ぼったくリバーの被害者とか、クラブ笹のツケを踏み倒そうとする男への警告の話とか、枝葉の話はありますが、ストーリーは骨太に、諏訪麗子の捜索を中心に進んで行く。
ラッキーな偶然もありますが、普段ススキノ探偵が飲み歩いているツテから情報を収集し、核心に迫って行きます。

敢えて難点を探すと、モンローの登場が唐突だった感がありますね。
果たして最初から、モンローを準備していたのでしょうか?

ラストは、いろんな意味でおめでたく、苦笑してしまうところも良い。
自分ならラストシーンは、殺人事件の真相にしましたね。
その方が、爽やかに終えられたのではないかと思います。

調べてみると、何と!このススキノ探偵シリーズが、東映から今秋、「探偵はbarにいる」と言うタイトルで、映画化されるそうです。
こんな地味な作品が、映画に向くんでしょうか?
主人公のススキノ探偵に大泉洋、北大の助手でススキノ探偵の相棒に、松田龍平、謎の女に小雪、資産家役に西田敏行・・・あれ?この小説と、全然ストリーが違う!!

良く調べると、映画のタイトルは、探偵はbarにいるですが、原作はススキノ探偵シリーズのこの次の作品、「バーにかかってきた電話」なんです。
ややこしい!!

実は、この作品が面白かったんで、「バーにかかってきた電話」も読了しています。
近日、blogにアップ予定です。

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