B5006.向こう端にすわった男

2011年9月21日 (水)

向こう端にすわった男 / 東直己

またまた東直己で、ごめんなさい。
実は別の作家の、別の作品を予定していたのですが、ススキノ探偵の紹介したい作品が溜まったんで、急遽変更しました。

これはハードボイルド小説ですが、ハードボイルドについては、拙著の最初の部分をご覧下さい。

この本は現在のところ、東直己のススキノ探偵シリーズ唯一の短編集です。

世の中面白いもので、長編小説ばかり読んでいる人は、偏見で、内容が薄いんだろうと、短編小説を読まない人が多いです。
一方、短編好きな人は、いつでもどこでも読み始められる手軽さがないため、長編小説には手を出しにくくなります。
かく言う自分も、短編ばかり読んでいた時、次に読んだ長編小説が、読むのが苦痛でしたね。現在は、克服しましたが。

短編小説が内容が薄いと思っているなら、それは偏見です。
小説とは、小説家が表現したいストーリーを文章で描く事であって、文の長短は作品の面白さとは関係ありません。

ハードボイルドで言うならば、創生期の大作家、ダシル・ハメットコンチネンタル・オプシリーズやサム・スペードシリーズの多くは短編です。
例えばカート・キャノン/エド・マクベインの「酔いどれ探偵街を行く」のシリーズも短編集です。
この中には、傑作も何篇かあります。
小説を読むのが好きなのに、短編を読まないのは、読書の楽しみを半分捨てているようなものです。

短編集では、1冊に1編面白い作品があったら、もうけものと言う感覚で読んで下さい。
その1編が、大傑作なら、下手な長編なんて、読んでられるか!ってぐらい、お得です。

ちなみに作家によって、短編が得意、長編が得意、両方得意とカラーが分かれます。

この短編集は、1992年から1996年にかけて書かれたもので、恐らくは長編の1992年年5月「探偵はバーにいる」以後、1993年1月「バーにかかって来た電話」、1994年10月「消えた少年」、1998年4月「探偵はひとりぼっち」のススキノ探偵の間隙を埋める作品です。


向こう端にすわった男

ゲイター」、「ロンググッドバイ」、「さらば愛しき人よ」の3本のハードボイルド映画を見て、ケラー・オオハタで気分良く酒を飲んでいると、30代後半、あるいは40代の大柄な男が入って来て、自分の向こう側にすわった。
ケラー・オオハタの先代からの客らしく、珍しいドイツのジン、「シンケンヘーガー」を静かに飲んでいた。
バーに電話がかかり、その男・・・フジタ宛に電話がかかって来た。
電話の様子から、フジタはトラブルに巻き込まれているようで、俺はススキノ探偵の面子から、協力を申し出た。

初出「ミステリィマガジン」1992年7月号。

短編小説は、短い枚数で全てを表現しなければらなず、無駄な文章なんて書けません。
前半の、伏線に気がつけは、オチは想像通り。

ドイツのジン、「シンケンヘーガー」って、この小説で知りました。
今度飲んでみようかな。

でもお茶目な事が好きな自分・・・こんな事やっちゃいそうだなぁ。
やり遂げて、10分間位大爆笑だったでしょう。


調子のいい奴

途方に暮れた中年サラリーマン(実は32歳)、岡崎から、22歳の恩師の娘、池田美佐子が結婚詐欺に遭っているかもしれないから、調査して欲しいと言うもの。
池田美佐子の相手は、いかがわしい会社が集まる場所にある、「メディア・アソシエイツ」の伊野田と言う、20代後半の社長。
伊野田は、元一流商社マンだったが、脱サラして会社を興した。
それほど儲かっていそうでもないのに、伊野田は高級クラブに通い、ホステスの美佐子に高価なプレゼントをし、ソウル旅行にも連れて行っている。

「メディア・アソシエイツ」岡崎から提示された調査方法は、伊野田の会社に、ススキノ探偵が就職して、伊野田を調べると言うもの。
ススキノ探偵の大学時代の同級生の経歴を脚色して履歴書を書き、知人の会社、「さっぽろへんてこ通信」にも在籍した事にし、口裏を合わせてもらうよう依頼した。
予想に反して、破格の待遇で簡単に「メディア・アソシエイツ」に入社出来、しかも伊野田の仕事について回る事になったが、仕事をもらえるはずの、大手の担当者から相手にされておらず、会社は何で収入にしているのか、怪しい状況。
一流商社在籍時代も評判が良くなく、その事実を岡崎告げ、依頼は簡単に終了するはずだったのだが・・・

3日後、岡崎から助けて欲しいと、依頼があった。美佐子にこの事を話したら、聞く耳もたない美佐子が怒りまくった。
それでも気になった美佐子は、伊野田に問いただし、逆に伊野田に丸め込まれたそうなのだ。
再度調査をしたススキノ探偵は、くだらない奴らに辟易(へきえき)しながらも、核心に迫る。

初出「イエローページ」1994年1月~7月号。
イエローページって、小説載せるんでしたっけ?

この作品は、大傑作です。
次に紹介予定の「探偵は吹雪の果てに」、「バーにかかって来た電話」に次いで傑作です。
短編でも、長編でも傑作が書けるとは、素晴しい!

どこの世界にでも、ほら吹きはいますし、中には大風呂敷を広げ、ビジネスにつなげている人もいます。
これって、場合によっては、詐欺すれすれなんですね。
自分もそんな人に出会った事がありますが、あの情熱的なまでに熱心な様は、引き込まれる人がいても、不思議ではありませんね。
自分は、運よく引き込まれはしませんでしたけどね。

仕事で夢を描き、もしもそれが1つずつ実現して行くなら、素晴しい事ですよね。
そんな人達は、その辺を突いて来ます。

ですので、ススキノ探偵の調査対象の伊野田社長には、とてもリアリティを感じます。
世の中には、あり得ないような嘘で騙される、ダメンズ好きの女性もいますよね。
美佐子と言う女性もリアリティを感じます。

この作品の面白さは、ススキノ探偵の依頼人岡崎、伊野田社長、美佐子のごたごた振り、ラストに至るまでストーリーのプロットです。
ススキノ探偵は、この作品で、初の就職をします。

ラストは、爽快に苦笑します。
現実の女にも、こんなに強い生き物はいますよね。
美佐子の場合、相も変わらず、ダメンズをつかんじゃうんだろうなって、思いますけど。

ネアンデルタール人友の会に、入会したいです(笑)。


秋の終わり

薄野の客引きノブが、幼なじみが北二十四条のホンサロで働いているので、助けて欲しいと。
小学校の同級生で、少々知恵遅れ気味な女で、いじめられてもへらへら笑っていたが、ノブが理由もなく殴られて、鼻血を出した時、ちり紙をくれた事があるんだそう。
女は、中学の時に妊娠したらしく、学校に来なくなった。
ヤクザに、監禁状態のホンサロから助け出して、婦人相談所に入れるべく、ススキノ探偵、高田、ノブの3人は、北二十四条に向かった。

初出「ミステリィマガジン」1994年7月号。

この短編では、高田初登場、そして唯一の登場作です。

北二十四条から数駅先に、自分の友人が住んでいて、何度も行った事があり、土地勘があります。
関係ないですが、北二十四条には、自分が札幌に行った時、必ずと言って良いほど行く、居酒屋がありました。
もう、15年くらい行っていませんが、まだあの店はあるんでしょうか?

これまた関係ありませんが、その友人は、北二十四条のかわいいお姉ちゃんに、入れあげた事があります。
今思うと、相手が良い人だったんで、犯罪に巻き込まれるような事はなかったんですけどね。

まともな判断の持ち主なら、こんな相談を受けて、どうしたら良いか分かりますよね?
しかしある意味、東直己の筆力で、自然に北二十四条へ行くのを良しと、しちゃいますね(笑)。
ホンサロの実態はリアリティがあり、東直己の想像だけではないと思います。

これ以上書くと、ネタばれは避けられませんので、この話は、ここで筆(キーボード)を置きます。


自慢の息子

俺は、「木村さん」に、まだ夜は冷え込む春先に出会った。
「木村さん」は、いつも夏場に、札幌に流れて来る、半分浮浪者で、建具の修繕みたいな事をやって、日銭を稼ぐ。
この季節の夜は辛かろうと、ごみ場をあさっていた「木村さん」を、ごみ場のようなススキノ探偵のアパートに連れて来た。
「木村さん」は、息子が小学3年の頃、会社の使い込みがバレ、女房と離婚して、人生を転落した。
春に新聞で、息子が大学に合格したのを知って、故郷の札幌に、いつもより早く来たのだそう。
俺は、「木村さん」から、別れた女房の行方探しを依頼された。
最初断りながらも、自分が先に奥さんに会って、意思を確認してから引き合わせれば良いと、俺は簡単に考え、引き受けた。

初出「ミステリィマガジン」1995年11月

ズレている人は、どこにでもいるもので、しかも本人は全然ズレていると思っていないから、ずっとズレ続けますよね。
ここまで迷惑な人ではないですが、ズレている人には心当たりがあり、「木村さん」にはリアリティを感じますね。

もしも人に情がないなら、世の中は、何と計算通りに運ぶ事でしょう。
でも、情があるからこそ、素晴らしいとも、ばかばかしいとも言えますよね。

こんなはずじゃなかったのに・・・と「木村さん」は思ったでしょうが、良く考えれば、事前に結果は分かるでしょう?
自分とすれば、この短編では2番目に好きですね。


消える男

俺はディスコ(設定がバブル前なんでw)を起業しようとしている森中社長に、池田と組むのをやめるよう、池田のいる前で進言した。
池田はかつて、参加していたガキ向けのイベントを企画していた際、俺がスポンサーから集めた金を持ち逃げした。
池田は、札幌の飲食関係者から小金を借りっぱなしにしていて、イベントに首を突っ込んでは、金をかすめ取っている。

森中社長は俺の進言通り、池田を通さずに、池田の下請け予定だった、飲食店の設計、企画、コンサルタント会社、「ヘパイトス80」と直接やり取りする事にした。
腹を立てた池田は、「ヘパイトス80」のスタッフ、そして俺に嫌がらせを仕掛けて来た。
ところが「ヘパイトス80」の井林社長は、なぜか、池田と正面から事を構えるのに消極的だ。
学生運動の頃からの井林社長の盟友、「ヘパイトス80」のデザイナー桑田さんは、一人行動を開始した。

書下ろし1996年9月

自分が、人生の寄り道をしていた頃、ひょんな事からイベント屋と出会いました。
池田のような人ではなかったですが、それほど親しくしていた人ではないので、実際は分かりませんね。
人種的には、先の伊野田社長と、似たり寄ったりです。

少ない紙数に、森中社長とのやり取りから、池田の嫌がらせ、そして井林社長と桑田の学生運動時代と、色々な話を詰め込んでいます。
いくら何でも詰め込み過ぎで、もう少し1つ1つを丁寧に書いて欲しかったですね。
ある意味、短編小説では、あまりこんなに手を広げるのは、良くないでしょう。
一応、きれいにさばいて、終わらせていますが、何だかスッキリしません。

学生運動については、自分はさっぱり分からないので、機会があったらその時代にどっぷり漬かっていた人に、意見を聞いてみたいですね。

近日、傑作の「探偵は吹雪の果てに」の書評をアップ予定です。

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