B5007.探偵は吹雪の果てに

2011年9月24日 (土)

探偵は吹雪の果てに / 東直己

またまた東直己の書評で申し訳ありませんが、この作品大傑作です。
自分はおおよその出版順、「探偵はバーにいる」、「バーにかかって来た電話」、「消えた少年」、「向こう側にすわった男」、「探偵はひとりぼっち」と読了しました。
そして次の作品が、この作品です。もちろん長編小説。

これはハードボイルド小説ですが、ハードボイルドについては、拙著の最初の部分をご覧下さい。

北栄会花岡組の組頭補佐、芳野達に袋叩きにされ、やっとの事で、高田の店までたどり着いた俺は気を失い、池谷の病人に入院した。
そこで、死んだはずのかつての恋人、純子に再会する。
芳野達の袋叩きの際、何度も立ち上がった俺に感銘したのか、芳野の手下が、芳野達が病院に襲撃に行くと教えてくれた。
そんな矢先、純子から手紙を預かり、斗己誕(とこたん)町の奥寺雄一まで届けて欲しいと言う。

斗己誕は、JRが廃線になり、深川駅からバスで行かなければならない。バスの本数は、2時間に1本程度。
そんな田舎町だが、昨年の秋の終わり、高校生が同級生をバットで殴り重症を負わせ、家に帰って姉をバットで殴り殺した事件があり、ワイドショーで盛んに放送されるなど、有名になった。
犯人の高校生は、目下行方不明。

もっけの幸いと、純子との約束を果たすべく、入院を切り上げ、着替えて斗己誕に向かった。
斗己誕の奥寺雄一邸は豪邸で、本人は東京にいて不在。
町の人間は、自分に対して、よそよそしい。
自分をマスコミ関係者だと、勘違いしている。

斗己誕は、長年町長を務めた奥寺に牛耳られており、その手先が森一族。
森一派が、わが世の春を謳歌し、斗己誕の多くが森/奥寺の言いなり。
殴られて重症を負った高校生は、森の息子で、親の威光を笠に着て、陰惨ないじめをしていたんだそう。

俺は、奥寺雄一が斗己誕に戻るまで待つ事にしたが、外出中に宿泊していた部屋が荒らされていたりと、歓迎されていないようだ。
注意していたのだが、入浴中に純子からの手紙を盗まれてしまう。
俺は、好むと好まざるとに関わらず、森一派と相対しなくてはならなくなった。

斗己誕は実在の町ではありません。実在だったら、大騒ぎになるでしょう(笑)。
バスに乗った深川駅は実在します。
オチアイに送られた、鷹栖インターも実在します。
深川駅からバスで1時間半、名寄から1時間。地理的には、国道275号沿いと思われますが、該当する場所には町はありません。
しかし、深川市と名寄市の間に幌加内町があり、幌加内町にはかつて深名線があり、現在は廃線・・・位置的には異なりますが、この辺が斗己誕のモデルだと思われます。

JRの民営化で、北海道のかなりのローカル線が、廃線になりました。
自分の祖母の家への路線も、廃線になりましま。
2時間に1本くらいしか走ってなく、場合によっては車両に客1人なのに、なぜか10両以上の編成とか・・・地域住民の方には申し訳ありませんが、そんな路線は、民営化したら廃線になっても仕方ありませんよね。

知らない町に行って、町のごたごたに巻き込まれる(自ら巻き込む?)有名な作品に、ハードボイルド創生期の大作家、ダシル・ハメットのコンチネンタル・オプシリーズの長編、「血の収穫」があります。
黒澤明監督の名作、「用心棒」は、「血の収穫」を時代劇に書き直したもので、ストーリーは一緒です。
ハヤカワですから、小説の裏側に書かれているストーリーを読んだ時、すぐに「血の収穫」を思い浮かべました。
ハヤカワのあらすじ・・・ネタばれさせ過ぎ!

ビックリです!?これまで、1年から2年おきに年を取りながら作品となったススキノ探偵が、一気に年を取り、この作品では45歳です。
まず、ススキノ探偵のプライベートですが、「バーにかかって来た電話」で出会った中学教師の春子と、「消えた少年」の事件で付き合うようになり、「探偵はひとりぼっち」の後、春子と結婚し子供を持ちます。
その後離婚、その息子も現在中学一年生。
太くなったのを気にしていましたが、この作品ではデブと呼ばれています。

ちなみに同じ名なしの探偵である、コンチネンタル・オプも、デブです。

作品に登場する音楽もUAの「青空」とか、現在に近づいて来ています。
余談ですが、個人的には、「温度」が好きです。

これまで、作品中で度々語られていた、昔大事な人を亡くした・・・と言う、大事な人が、今回驚きの再会をした純子。
純子は、どうしてススキノ探偵の前から、死を装うっていなくなったのか?・・・は、ストーリーで語られています。
こんな経験をした事がある人なんて、ほとんどいないでしょうが、ヤバい世界にも片足突っ込んでいるススキノ探偵ですから、アリとしましょう。

今までの作品と違い、高田の登場は冒頭のみで、高田の格闘シーンは皆無です。
高田は、北大大学院を卒業して、小さな飲食店をやっていますので、昔のように無鉄砲に格闘とは行かないでしょうね。

ストーリーの展開のさせ方が、秀逸ですね。
手紙を渡すだけの、簡単な任務・・・ススキノ探偵もそう考えて斗己誕に乗り込みますが、町が色々とおかしい・・・様々な謎が提起されます。
正直、ストーリーの半分くらいまでは、色々な謎を、ここまでとっ散らかせて、どうすんだろう?って思いましたね。

斗己誕ほど腐敗した町は、現実にはないと思いますが、事の軽重はともかく、地方でも中央でも、政治によって甘い汁を吸おうとする人、その甘い汁に群がる人はいるでしょう。
また観光地でもない田舎は、閉鎖的なところもありますからね。

その時点(ってどの時点?)まで、純子に手紙を託された意味が分かっていなかった、ススキノ探偵ですが、次々と気に食わない出来事が起こります。
遂には、必死にならなくてはならない事態が起こり、吹雪の中、スノーモービルに乗って、森一派と対決に向かいます。

余談ですが、映画「探偵はBarにいる」で、スノーモービルを使用したのを、散々リアリティがないと書きましたが、それは交通の発達した札幌近郊の事。
斗己誕のように、交通の便の悪い場所・・・ましてや斗己誕郊外なら、大雪が降ると、除雪車が来ない限り、雪に閉じ込められる恐れがあり、金持ちならスノーモービルを持っていても、不思議ではありません。
さらに目的地に、より早く着くために、道なき原野を行きますので、それは車では不可能で、スノーモービルでないと行けません。

田舎の人で、同じ言葉を何度もリフレインする人はいますが、ここまではひどくないでしょう。
面白かったんで、良いですけどね。

伏線に気付けば、予想通りのストーリー展開・・・でも伏線はうまく隠されています。
バタバタと畳み込むようにラストに向かい・・・パズルのように謎が解け、ラストは甘く、切ない。

ストーリーは、「血の収穫」と全然違い、むしろもっとリアリティと親近感があり、「血の収穫」よりこの作品の方が好きです。
ロス・マクドナルドのリュウ・アーチャーシリーズは言うに及ばず、レイモンド・チャンドラーの「長いお別れ」より、甘く切ないこの作品が好きです。
コンチネンタル・オプ、フィリップ・マーロウ、リュウ・アーチャーよりはるかに間抜けで、何の役にも立ちませんが、ススキノ探偵の方が、良い酒飲みでしょう。
あえて難点を言えば、もっとシンプルかつ骨太なストーリーだったら、更に良かったと思います。

日本では、古典ハードボイルド御三家と呼ばれるダシル・ハメットレイモンド・チャンドラーロス・マクドナルドが、この作品を読んで、天国で歯ぎしりしているかも知れません(笑)。

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