Maribu / Full Moon
フル・ムーンと聞いて、ピンと来た人は凄いですね。
ラーセン・フェイトン・バンドの前身と言えば、1970年代後半から、1980年代のフュージョンブームを通って来た人は、分かるのかも知れませんね。
フル・ムーンは、ようやくジャズのミュージシャンが、電子楽器で遊び出した1970年初めに、後のフュージョンを予言するかのような曲を出して、時代が早過ぎて、消えて行ったバンドです。
しかしフル・ムーンには、第2幕があって、1980年、フル・ムーンの中心人物、キーボーディスとのニール・ラーセン、ギターリストのバジー・フェイトンのバンド、ラーセン・フェイトン・バンドとして復活し、商業的にもまずまず成功します。
しかもフル・ムーンの夢が忘れられなかったのか、ラーセン・フェイトン・バンドの1982年に出したセカンドアルバムは、フル・ムーン名義でリリースしました。
このアルバムは、名盤です。
紹介するのは、第1次のフル・ムーンの曲です。
こんな時代に、こんな曲をやっていた凄さを知らしめよう・・・と言う意図もありますが、切実に、YouTubeにラーセン・フェイトン・バンドの曲とか、ニール・ラーセンの曲が少な過ぎると言うのもあります。
もしあれば、「The Visitor」を紹介したかったんですけどね。(ニコ動にはありますね)
まず、第1次のフル・ムーンについて、解説しなければなりませんね。
piano - Neil Larsen
guitar - Buzz Feiton
bass - Freddie Beckmeier
drums - Phillip Wilson
tenor sax - Brother Gene Dinwiddie
percussion - Ray Baretto
この頃は、ニール・ラーセンもバジー・フェイトンも、スタジオミュージシャンをしてましたが、世間的には有名なミュージシャンではなかったでしょう。
バジー・フェイトンなんかは、スティービー・ワンダーのバックなんかもしていたのですが。
バジー・フェイトンは、このアルバムの前に、ポール・バターフィールド・ブルース・バンドでギターを弾いており、当時ドラマーのフィリップ・ウィルソン、ベースのフレディ・ベックマイヤー、サックスのブラザー・ジーン・ディンウィディも、ポール・バターフィールド・ブルース・バンドのバックでした。
余談ですが、バジー・フェイトンは、1992年に独自のギターのチューニング方式、バジー・フェイトン・チューニング・システム(以後BFTS)を考案します。
画期的なBFTSは、多くのギタリストが取り入れました。
渋いギター職人、バジー・フェイトンの演奏は知らなくても、BFTSはほとんどのギタリストが知っています。
BFTSとは、それまで誰もが疑問に思わず行っていた、ギターのチューニングをして、Aコード(A,C#,E)はきれいに聞こえるが、Dコード(D,F#,A)はきれいに聞こえない事に不満を持ち、独自のチューニング方式で、ほとんどのコードをきれいに聞かせます。
実は自分、1980年代に、全く同じ事を考え、悩んでいました。
ブラスバンドをしていた(自分もしていましたがw)友人から、昔のクラッシックは、曲によっってチューニングを変えたという話を聞いて、ひらめいて、それ以後、曲によって良く使うコードが最も調和するよう、チューニングを変えるようにして、悩みを解消しました。
むしろそこから突っ込んで、更に微妙にチューニングをずらすと、チューニングメーター上はチューニングが合っていませんが、クリーンサウンドのカッティング時にカラッと抜けの良くなるチューニングとか、逆に泥臭い重たい和音に聞こえるチューニングとか、曲に合わせて使い分けていました。
ちなみにこの話を、当時の音楽仲間にしたところ、誰にも理解されず、「お前の思い過ごし」の一言で、片づけられてしまいました(笑)。
シロウトの自分が思いつくくらいだから、プロの方は、当然こんな事に気が付いてるんだろうと思っていたのですが・・・今から思うと、体系的に理論づけておけば、音楽史に自分の名前が残ったかもしれませんね(笑)。
記憶に間違えなければ、1972年のアルバム、「Full Moon」は、日本で発売されていないんじゃないかと思います。
輸入で、入って来ていたかは、不明です。
自分はもちろん、リアルで「Full Moon」のアルバム発売なんて知りませんでした。
1978年のニール・ラーセンのソロアルバム、銘盤「Jungle Fever」で、麻薬中毒から復活した盟友バジー・フェイトンと共演し、それがきっかけで、ラーセン・フェイトン・バンドが結成されました。
1980年のラーセン・フェイトン・バンドのアルバム、「Larsen Feiten Band(そのまんまや!)」が評判になると、前身である「Full Moon」についても、様々な人が言及しました。
当時はまだCDはありませんでしたので、「Full Moon」のレコードを持っている人、カセットテープで持っている人が、音楽雑誌で、「Full Moon」の先進性と、素晴らしさを語ると、聞きたくなるのが人情でしょう。
まともに「Full Moon」のアルバムが出て来たら、数万するんじゃない?は、当時仲の良かった中古レコード屋店主の弁。
自分もいろいろなツテを探りましたが、ついに「Full Moon」の音源を持っている人には出会いませんでした。
ちなみに、山下達郎は、バジー・フェイトンのギターが大好きだそうで、この「Full Moon」の音源も持っているという話でした。
当然ですが、山下達郎のツテなんてないし・・・
恐らく自分は、「Full Moon」のアルバムを一生聞く事はないんだろうな・・・と思っていた2000年、何と「Full Moon」のアルバムが市販されたではありませんか!!
もちろん買って聞きました。
アルバム自体は、巷間言われていた程、名盤とは思いませんでした。
しかし、クロスオーバーが出てきたかどうかの、まだまだ混沌としていた時期(フュージョンはその後です)に、6年後のフュージョンを予言するかのような曲に、やっぱりこいつら凄いなと思いました。
さて曲に行きましょう。
「Full Moon」のアルバムは全9曲中、2曲がインストゥルメンタル、他はファンキーなボーカルチューンです。
今回紹介するのは、後のフュージョンを予言するかのような曲、インストゥルメンタルの1曲です。
この曲を作曲したのは、ニール・ラーセンです。
自分の音楽仲間が皆言うには、ニール・ラーセンの曲は、おおむねテンポが緩く、地味過ぎるだそう。そうかな?
ゆっくりとしたベースのソロから、突然マリブのタイトル通り、カリフォルニアの太平洋海岸のような雰囲気のメロディが始まります。
テーマのメロディラインは、どこか憂いがあって、まるで夏の薄曇りの空のように、爽やかにはなり切らない感じです。
そしてそれが、どこかしらノスタルジックさを感じ、自分はこの曲に限らず、ニール・ラーセンが作曲したメロディが個性的で好きです。
胸がきゅんとしますね。
1972年当時、インストゥルメンタルとは、リズムがスィングするジャズが多数派で、アンダーグラウンドでは、ジャズとブルースの中間みたいなファンキーなインストゥルメンタルもあったようですが、かなりの少数派。
ましてやエイトビートで、爽やかな雰囲気のインストゥルメンタルは、ほとんどなかったはずです。
インストゥルメンタルと言う事で、全体的に演奏がジャズを意識しているのは、ちょっと可笑しくもありますね。
ホーンセクションのテーマメロディに、バジー・フェイトンのギターは、メロディっぽい、しかしバッキングのような、面白いフレーズです。
後に、ニール・ラーセンのソロアルバムとか、ラーセン・フェイトン・バンドで見られる特徴、テーマメロのユニゾン(同じ旋律を奏でる事)の原型があります。
後のニール・ラーセンは、テーマメロにハモンド・オルガンを多用し、ハモンド・オルガンの名手として名を馳せますが、この曲では当時、弾きこなす人が少なかったローズ・ピアノ(当時ならフェンダー・ローズ)で、バッキングを弾いています。
ベースのフレディ・ベックマイヤーのフレーズは、ちょっと跳ねるようなビート感が、ノリが良いですね。
このベースの音、ウッドベース(コントラバス)っぽい音ですが、エレキベースをミュートしてるんじゃないか?と思いますね。
先攻は、バジー・フェイトンのギターソロ。
バジー・フェイトンは、ロック畑の人で、解散直前のラスカルズのギタリストだった人。
ギターサウンドは、少し歪ませてはいますが、珍しくジャズっぽいクリーンなサウンドで弾いていますね。
後のニール・ラーセンのソロアルバムとか、ラーセン・フェイトン・バンドとは、全く違う音色です。
1:29の音程が上下する短いフレーズ、1:37の速引きフレーズは、バジー・フェイトンの手クセで、色々な曲に登場します。
それにしても、間のメロディの歌わせ方が、ジャズ風を意識しつつも、結局バジー・フェイトン特有の、ロックなギターの歌わせ方になって行きます。
2:04の速引きも、手クセですね。
後攻は、ニール・ラーセンのローズ・ピアノのソロ。
ローズ・ピアノは、このサイトでも度々言及していますが、ピアノ線が弱く、切れ易いので、弱いタッチで、けだるい雰囲気を出すのが、味わいです。
その意味では、このソロの入りなんか、ちょっと幻滅ですね。
時には流れるように、その後刻んでみたりと、音使いは素晴しいのですが、ローズ・ピアノの演奏としては、もうひとつです。
しかし、後半になるに従い、少しけだるさも出て、良いソロになって行ってます。
当時、恐らくまだ新鋭楽器のローズ・ピアノの演奏法なんて、確立していなかったでしょう。
後に、ローズ・ピアノのソロの大傑作、ハービー・ハンコックの「Chameleon」は、1973年の作品。
ハービー・ハンコックは、ローズ・ピアノと音の良く似た楽器、ヴィブラフォン(鉄琴)を思わせるようなフレーズで、その後のローズ・ピアノの演奏の方向付けをしました。
その後、テーマを2回演って、エンドとなります。
どうですか?何も言われないで聞いたら、普通にフュージョンの曲だと思うでしょう?
ビックリな事に、この曲がフュージョンブームの6年も前に、リリースされた曲なのです。
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